2020.03.30

手ごわい師匠たち

春、卒業の季節です。

ある大学の卒業生のぶっとんだ謝辞に、ぶっとびました。

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卒業生代表・○○○○

卒業生総代答辞の多くが、ありきたりな言葉の羅列に過ぎない。
大きな期待と少しの不安で入学し、4年間の勉強、大学への感謝、そして支えてきてくれた皆さまへの感謝が述べられている定型文。
しかし、それは本当にその人の言葉なのか。
皆が皆、同じ経験をして、同じように感じるならば、わざわざ言葉で表現する必要はない。
見事な定型文と美辞麗句の裏側にあるのは完全な思考停止だ。

(中略)

すべての年度での成績優秀者、〇〇〇でもっとも名誉である賞の〇〇奨学金、学生の提言の優秀賞、卒業論文の最優秀賞などの素晴らしい学績を獲得した自分に最も感謝している。

支えてくれた人もいるが、残念ながら私のことを大学に対して批判的な態度であると揶揄する人もいた。
しかし、私は素晴らしい学績を納めたので「おかしい」ことを口にする権利があった。
大した仕事もせずに、自分の権利ばかり主張する人間とは違う。

もし、ありきたりな「皆さまへの感謝」が述べられて喜ぶような組織であれば、そこには進化や発展はない。それは眠った世界だ。
新しいことをしようとすれば無能な人ほど反対する。なぜなら、新しいことは自分の無能さを露呈するからである。

(後略)

全文はこちら↓
https://www.univ.gakushuin.ac.jp/iss/news/20200320-1.html

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皆さん、この謝辞をお読みになれて、どう思われますか?

さて、もう一つ、違う大学の学生の様子をご紹介します。

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ハーバード、スタンフォードなど名門大学を辞退して進学する学生もいるという、合格率2%の超難関人気校があります。
サンフランシスコに拠点を置く、ミネルヴァ大学です。(2014年創立)

創設者ベン・ネルソン氏の、世界で活躍するリーダーを育てたいという思いにより、『高等教育の再創造』を目指し設立されました。
全てはその実現のために、非常にユニークな構造で運営されています。

大学ですが、キャンパスがありません。

授業は全てオンラインで行われます。

寮があり、全寮制です。

寮は世界7都市にあります。
学生は4年間で7都市の寮を移動しながら、世界各国から入学してきた同級生と共同生活をします。

学生には、授業への参加以外に、その時滞在している国に貢献する課外活動を行う事が義務付けられています。

ディスカッション中心で進められる授業と、企業や政府、自治体とに協働プロジェクトを通じ課題発見や解決手法を学びます。

手法に留まらず、生徒たちは、共同生活をする仲間と、常に話し合い、互いに学び合います。

地域活動を通して、学んだ知識が実社会では容易に通用しないこと、役立てるまでには様々な壁があることを体験します。

国を移動する度、自分の価値観が通用しない事態に直面し続けます。

結果、「自分の知識や常識が通用すること自体稀である、という感覚を持つようになった」と学生は語ります。

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いかがですか?

皆さんは、このような環境で学んだ若者に対して、どのような印象をお持ちになりますか?

ぶっとんだ謝辞を述べた卒業生に対しても、ミネルヴァ大学の学生に対しても、
我々にとって大事なのは、その長所短所を論じたり、両者を比較したりすることではありません。

大事なのは、実際に彼らと共に働いたり、何らかの形で出会ったりしたとき、
自分はどういう反応をするだろうか、彼らとどう接するだろうか、と自分事に引き寄せて考えてみることです。

多くの価値観の中でもまれ鍛えられた若者、自由に主張し行動することが尊重される環境に慣れた若者。

色々ぶっとんだことを言ったりやったり、するでしょうねぇ。

自分は、どう反応すると思いますか?

そこには自分の価値観が現れるでしょうし、自分の思考や行動の選択肢の幅が、見えてくることでしょう。

上海駐在時代、日系企業総経理(総経理=社長)の方々が、こんなことをおっしゃることがありました。

「優秀な人材を採用したい。
でも、今はできない。
問題は彼らの給与が高すぎることではなく、彼らを使う能力が、今うちにないからだ。」

そんなむなしいこと、いわんといて・・・・涙
ですよね・・・

取り込めないから、排除する。

それが、自分や組織のレベルを上げてくれる可能性を持っていたとしても。

それは、当面最も安全な選択で、将来的に最も危険な選択です。

今後この選択肢をとり続ければ、間違いなく組織は衰退します。

それより以前に、自分自身が無力感に陥りそうです。
自分自身を無力感に陥れてしまうような選択は、良いことはきっとありません。

では、敢えてここでチャンレジすることを選ぶとしたら、あなたならどんなことを試みますか?

一人の可能性を秘めた人材を受け入れるために、組織全体をかえてやる、くらいにチャレンジをするとしたら、何をするでしょうか?

彼らと、どのように関わり、信頼関係を築いますか?

彼らをどう伸ばし、部下の一人としてチームを機能させ、組織に影響力を発揮しますか?

皆さんがいらっしゃる組織、皆さんご自身のリーダーとしての価値観をもとに、あなたならどうするか、ぜひ考えてみてください。

もし、私たちの選択肢が一つでも増えるなら、それは私たちの成長に他なりません。
私たちの組織の成長に、他なりません。

結局は、彼らに私たちが育てられるという事なのかもしれません。

手ごわそうな、若き頼もしき師匠たちですね。