2020.04.13

関係性のパラダイムシフト

昨年、最後となったイチロー杯の閉会式。
挨拶に立たれたイチローさんは、小学生の選手たちに「これからは自分で自分を鍛えてほしい」と伝えていらっしゃいました。

その背景には、学生の野球指導資格を得るための研修での体験があったようです。
「教える側の立場より教わる側の立場が、強くなっているようだ」。
だから、「厳しく指導することが難しくなっている時代、君たちは自分で自分を鍛えてほしい」と、伝えたのです。

スポーツ界で、監督やコーチからの行き過ぎた「指導」が問題になる例が続きました。
そのような一部の組織や指導者の上下過度な行動により、今、選手側の権利や主張が守られる動きに大きく傾いているように感じます。

これは、スポーツ界だけの話ではありません。
企業でも、上司の部下への気の遣い方は、聞いているこちらが気の毒に感じてしまうほどです。

「パワハラ」にならないように・・・

モチベーションを下げないように・・・

遠巻きに観察しながら・・・

一つ一つ言葉を選んで・・・

これじゃあ上司も疲れますよね・・・苦笑

指導する側が圧倒的に強い立場だった。
指導される側も、理不尽な思いもある一方で、圧倒的強い立場の人から享受できるものが多いことを理解していた。
そういう中での、「上下関係」であり「一方的な力関係」が指導の関係性でした。

それが、今変わってきています。

ある過度な問題行動が原因の一つではあったかもしれません。
しかし、決してそれだけではなく、個性がより尊重されるような時代の価値観の変化が、指導における関係性に変化をもたらしているのだと思います。

「指導」における関係性にパラダイムシフトが起こっているのです。

組織や社会全体の成長を思えば、価値ある変化だと思います。
新しい可能性も、見えてくると思います。

けれども、変化の過程では、色んな所にチャレンジを生じさせます。

指導する側の戸惑いもその一つですが、より注意を払うべきは、指導される側に求められるチャレンジではないかと思います。

無条件に統一的に与える「指導」が避けられるあまり、指導されない不幸というものを、生みだしているように感じます。

若者は、叱られることや、行動を強制されることから解放される代償として、自分の変化や成長への責任を、自分で引き受けなければならなくなっているのです。

もはや、上司がいざなってくれる指導は期待できず、
何を成し遂げたいのか自ら明らかにし、
何を行動したらよいか自ら考え、
欲しいものがあれば自分が行動しなければ指導も得られないかもしれないのです。

そのことを、若者側、指導される側の部下は知っているでしょうか。

イチローさんの「自分で自分を鍛えて」というメッセージを聞いて、小学生に厳しいことを言うなあと、最初は思いました。
でも、指導者側の立場の変化を明確に伝えることは、敬意ある行動だと思い直しました。
更に言うと、相手に伝わるまで、伝え続けていく責任が指導者側、物事が見えている側にはあるのではないでしょうか。

現在、1on1という仕組みが企業の中で多く取り入れられています。
1on1の大前提は、「部下のための時間」とされています。

ところが、どの企業様も、上司側の対話力には課題感を持ち対応策を講じていらっしゃいますが、部下側は全くのノーマークなのです。

1on1は部下のための、部下が活用する機会である、としているにもかかわらず、上司側のスキルだけでその中身をコントロールしようとする発想は、これまでの「指導側がいざなう」という流れから何ら変わりありません。

確かに、現場を拝見すると、上司側の最低限のスキルや対話のルールの習得は必要だと言わざるを得ません。

でも、部下の方々とて、「機会を与えるのは会社の役目」、「自分たちが成長しないのは上司の問題」、と思い込んでいる人がいても不思議はないのです。

これは、「関係性」のパラダイムシフトです。

関係性は、関わる双方が主体的に働きかけていくことが変化の条件となります。

ギクシャクした友情を、元に戻したいときも、

ケンカした相手と、やり直そうとするときも、

会話がなくなった家族と、新しい形を創り出そうとするときも、

一方だけが意欲をもってアプローチしても、相手の主体性がないことには独り相撲です。

上司側も、部下側もそれぞれの立場で、自分が起こすべき変化を自覚して共に変化する時だ。
そのことを双方が理解していて、初めて成り立つものなのです。

私が新人の頃、叱られたり、理不尽な扱いに悔しい思いをしたりもしました。
今になって、一見強引すぎるような関りでも、結果としてあの時しか学べなかった多くのことを教わった事実に気づきます。

これから若者や部下たちは、どうやって上司と関わり、自分で自分を鍛えていくのでしょうか。

なかなか、難易度が、高いですねぇ~

そうは思いませんか?

大きな荷物を最初から背負わされた彼らの力になれるような、上司力を磨いていきたいですね。